第一章 視点:鈴鳴涼樹

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「偽薬物質は、モノがヒトに人間の体と誤認させやすくするために作成された物質であり、偽薬効果による肉体の拡張を行うには偽薬物質が『自分の体として拡張したい物体』に含まれている、あるいは過度に、そして密に隣接している必要があるのであります。そのため現在では、人間の住んでいる居住区や人間が触れるモノについて、全ての物質は偽薬物質が混入されているのでありますよ。また、そうした偽薬物質が混じっている物体は人間の電子信号を送るための伝達路として、偽薬網(プラシーボ・ネットワーク)と呼ばれているのであります」 「だが、例外も存在する!」 「偽薬制御装置(プラシーボ・コントロール・デバイス)と偽薬制御棒(プラシーボ・コントロール・ロッド)でありますな」  枝から枝へ、木々から木々へ移動する自分について、男は地面を並走してくる。獅子の鬣のように自分の髪をなびかせながら、男はその顔に猛禽類じみた笑みを刻んだ。 「偽薬効果は思い込みの力が働かねぇと、そもそも発動しねぇ。そこで作られたのが、偽薬制御装置だ。偽薬制御装置は脳の電子信号を増幅して体外に送るための、いわば感情増幅器! だがこの偽薬制御装置の登場が、人間社会に大きな傷跡を残しやがったっ!」 「……偽薬制御棒の説明は、自分からした方がいいでありますか?」 「それよりせっかく会話の流れを戻してやったんだから、最初の問である『世界に与えた影響』について答えやがれ、クソガキ(Fuckin Guy)!」  罵声と共に、大剣が迫る。樹の幹ごと自分をへし折らんばかりの勢いで繰り出されたその一撃を横目に、自分は懐から新たに投擲用に短刀を四本、左手で引き抜いた。男の大剣を右手の短剣で受けながら、新たに抜いた闇色のそれを四本全て、男の足元に向かって投擲する。それを見た男は舌打ちをし、流れるような動作で大剣を引き戻した。  そして一閃。  それだけで、自分の投擲した短刀は全てへし折られ、地面に塵屑のごとく叩きつけられる。だが、そのおかげで自分は先ほどの攻撃の反動を利用し、男から更に距離を取ることが出来た。接近されないよう男との距離を測りながら、自分は言葉を紡いでいく。
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