第一章 視点:鈴鳴涼樹

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「偽薬制御装置は感情を制御するという役割もあり、人間の首筋から脊髄に埋め込まれるようになったのであります。やがてそれが普及し、全ての人間に偽薬制御装置が埋め込まれるようになると、偽薬効果を悪用したテロ活動が横行するようになったのでありますよ」 「その悪用された偽薬効果の問題と、そのテロ活動との攻防戦の名称を言ってみろっ!」  怒号を上げながら、男が手にしていた大剣を槍投げよろしくこちらに向かって投擲した。男に接近されないよう気を配っていた自分にとって、その遠距離攻撃は完全に想定外の一撃。虚を突かれながらも自分の立っている枝がへし折られる前に、どうにか自分は樹の表面を駆け下りるように走り抜ける事が出来た。  地面に降り立ち顔を上げると、男は自分に向かって飛び蹴りを放とうとしている。自分はすぐさま回避を選択。前転するように転がると、背中を男の足が薄皮一枚の所で通過していく。  体を起こし、男に振り向きながら、自分は口の中に入った砂を唾と共に吐き出した。 「偽薬効果を意図的に暴走させ、自分とそれ以外の境界を曖昧にする事で、自分の体自体を変異。更に偽薬物質ごと他者の体すら自分の体として取り込んでしまう問題の名称が、自己不認識問題(パーソナル・ロスト・バグ)。そして自己不認識問題を利用した自爆テロとの攻防戦の名を、偽薬攻防(プラシーボ・バトル)と言うのであります」 「そうだ! 自分の体自体を爆弾にする自己不認識問題は、偽薬制御装置を埋め込んだ全人類誰もが手ぶらで行える、クソみてぇな自爆技だ! 身体検査なんかやっても意味がねぇ。爆弾は既に脊髄に埋め込み済みだ! だから奴らは好き勝手、制御出来ないほどの妄信的な自分の感情を垂れ流すことで他人を巻き込み、そして殺していったっ!」  樹の枝をへし折った大剣が地面に突き刺さるのを見向きもせず、男は犬歯をむき出しにして自分に襲い掛かってくる。迫り来る男の拳、蹴りの連撃を、自分はすんでのところでいなし、逸らし、躱していく。
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