第一章 視点:鈴鳴涼樹

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「訓練用とは言え偽薬武装(プラシーボ・アーミー)を、しかも遠隔で運用できるとは、流石でありますな」 「言っただろ? 感情の強さが力の、偽薬効果の強さなんだよぉ。だから大昔で言う所の性格破綻者や、空想癖を持っていたり、情緒不安定な状態にある俺みてぇなのが必要とされてんのさ! だが、そのことをテメェに言われても、全く嬉しくねぇよっ! 訓練用のは安全を考慮して感情の伝達はし易いが、偽薬効果は単一のもの以外起こしにくいからなぁ!」  つまらなさそうに吐き捨てると、教官は展開した大剣を元に戻し、自分の事を一瞥した。 「そういやぁ、偽薬武装の説明がまだだったなぁ。説明しろや、スズ!」  まだまとわりついていた紫電を振り払うように、大剣で二度、三度と素振りを始めた教官に向かって、自分は頷きを返す。 「偽薬武装とは、自己不認識問題によるテロ活動に対抗するために、偽薬攻防を勝ち抜くために生成された武装であります。偽薬制御棒により感情を制御しきる事で偽薬武装の使用者自身に自己不認識問題が発生する事を防ぎつつ、偽薬効果により偽薬武装を操作、展開。展開した際偽薬武装は周りの物質を取り込み、刀から炎を出したり、槍から氷を出したりと、用途は様々でありますが、物質変化を発生させる事が出来るのでありますよ。一般的な効果は、電子信号をイメージさせる雷でありましょうな」 「偽薬効果による物質変化は使用する偽薬武装によって変化する事もあるが、一番重要なのは思い込み(感情)の強さだ。偽薬効果がどのようにして起こるかを考えれば、稲妻のような力を思い描くのが容易なんだろうよ! それからスズ、他にも偽薬武装の利点があっただろ?」 「安全対策(セキュリティ)の事でありますな? 偽薬武装には利用者のDNAを使用した接続制限が施されているため、理性喪失体に取り込まれる心配がないのであります」  だから普通、偽薬武装はその使用者が直接触れて、偽薬効果を発動させる。その方が感情を直接偽薬武装に送れるため、偽薬効果も効率的に発動出来るからだ。また、電子信号を送る偽薬網に問題があった場合、電子信号が欠損(感情が劣化)する心配もない。  そうしたことを一切考慮せず、当然といった様子で偽薬武装を遠隔で操作した事から、教官の力が如何に強大なものかは察することが出来るというものだ。  その教官が自分の言葉を引き継ぎ、口を開く。
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