青の幻影

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 ゴールデンウイークに入った。高校生活最後の。大学受験の勉強の追い込みはここから夏休み正念場だ。親父は 「一浪くらいならしてもいいぞ」  なんて余裕の笑みをかましてたけれど、そうはいかない。母ちゃんは、俺が五つの時に病気で亡くなっちまった。それ以来、女も作らず脇目もふらずに俺だけを優先し、俺の為だけに生きてきてくれたんだ。身内贔屓も多少入ってるかもしれないけど、親父は細身の筋肉質の体型で身長も低くない。小麦色の肌で濃い顔立ちの精悍なイケメンタイプだ。その気になれば女の一人や二人作れただろう。  だから俺が目指すは工業大学一発合格。で、しっかり手に職をつけて。会社やら社会とやたらに何があっても食っていけるようにならないとな。それで、親父を安心させてやらないと。  そんな親父に、どうやら女神が舞い降りたらしい。今年の春、桜が満開になった木の下で出会ったそうだ。悪戯な春風が、その(ひと)の被っていた淡い水色の帽子を飛ばしたらしい。それを、たまたま偶然通りかかった親父がキャッチして。という馴れ初めなんだとさ。互いに一目惚れしたそうだ。  そんな、昭和のドラマみたいな出会いがあるんだな。それに、一目惚れなんて本当に起こるんだ。驚いたよ。俺には全く信じられない感覚だけどな。やっぱり、恋ってお互いの人となりを知ってからでないとさ。大体において、一目惚れって偶像崇拝だと思うんだよなぁ。……とまぁ持論だし、人様の恋は自由だけどもさ。
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