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「なんだこれ」
作業着を着た初老の男はトンネル内に落ちていたビデオカメラに残された映像を一通り見てから、一緒に画面を覗いていた若い男の顔を見た。
二人は心霊スポットと噂されるQトンネルの清掃に来たW町の職員だった。隣町と交代で一年に一度、周囲が雪で閉ざされる前に見回りを兼ねてやって来る。
今年もたくさんのゴミが散乱していた。仕分けしながらゴミを袋に詰めて奥に進み、出口付近でこのカメラを見つけた。いつ落としたものかわからないがまだ電源がつく。落とし主が判明するかと考え、映像を確認していたというわけだ。
「自主映画? ですかね――ほら、何とか方式ってP、P――POV? あんな感じで撮ってんじゃないですか? 心霊スポット探検の態で――でも上手く作ってますね」
「オレにはよくわからんが、今の若者は何でもできるんでうらやましいよ。でも映ってるトンネルってここだよな。どうやったらこんなことできるんだ?
ほら、ここ」
男はREWボタンを押し、探検隊がトンネルの出口から森に出るシーンを再生した。
「向こうに出るまで映ってんのは確かにこのトンネルだろ? 森に出てからも映ってるのはこのトンネル。
でもどうやったらこんなことできんだろうな?」
男が顔を上げる。そこにはブロックで封鎖された出口があった。隙間から見える外はトンネルのぎりぎりまで木々が密集して昼でも暗く、枝葉の擦れる音がすごい。
若い男はふっと笑って、
「今の技術ならどうとでもできますよ。どこかの森を撮って、いかにもこのトンネルから出たみたいにしてるんでしょ。火傷のメイクもすごいですね。
それよりもせっかくこれだけのもの作ったのに、なんでこんなとこに落としていったんでしょ。もったいない」
「ほんとだな。
ま、保管してればいずれ問い合わせに来るだろうよ。
それにしてもこの中は寒いなあ。もう行くか」
二人はゴミ袋を持ち、陽の差す入口のほうへと戻り始めた。
「たすけて」
ブロックの隙間から覗く焼け縮れた茶髪と煮えて白くなった眼がさっきからずっと助けを求めていた。
だが、二人の背中は遠く陽の光に溶け込み消えていく。
「たすけてたすけてたすけてたすけ――」
暗いトンネルの中では今でも葉擦れの音だけが静かに響いている――
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