Act.4 君に捧げるこの気持ち

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   …絵を描き始めた時、素直にユーリーのことを早織に話せていれば良かったのだが、生まれた有理に名前をつける際、甘い栗色をした産毛程度の頭髪に淡い恋心を思い出してしまった澄友は、思わず、 「ユーリー」  と口走り、その呟き声を聞き逃さなかった早織に、 「誰のお名前?」  と訪ねられ、咄嗟に、 「この子の名前の候補だよ」  と答え、ユーリーを思い出したことを誤魔化してしまった。  そしてその後、 『あの時のあの名前は』  と言い訳をする間もなく、澄友から発せられた名をいたく気に入った早織によって「有理」という名前が吾子に付けられたのだった。  そんな経緯もあり、余計にユーリーの絵を描いていることも、彼女が初恋の人だということも、早織に告げられなくなってしまった。  …そして。  この一件を境に、気づいたことがあった。 「なんですか?」  黙って澄友の話を聞いていた有理がそう言うと、澄友は淡い笑みを零して話し始めた。 「早織が、大変なやきもちやきだったんだ。 嫉妬深いという言葉がぴたりとはまるほどのやきもちを妬く人で、それは有理、お前という子供であっても変わりなかったくらいのやきもちやきだったんだよ」 「えっ?」 「私がね、有理に構いすぎると言ってなじった挙げ句、『じゃああなたが有理にご飯をつくって上げたらいいじゃない』と言い出してな。 赤ちゃんであるお前の世話を放棄してしまうほどのやきもちやきだった」 「……」  具体例を出された有理は、呆れ返る。  嫉妬深いだなんて大袈裟な、と思ったものの、例として自分が覚えていない過去の話を持ち出されては、ぐうの音も出せない。  それでも、 『本当に?』  と問いたい気持ちを滲ませる顔つきで見る目と視線を合わせた澄友は、その無言の問いかけを肯定するように深く頷いてみせた。 .
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