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「父さん」
「…うん?」
「母さんがそうだからって、全部が等しくなければならないことなんて、ないと思う。 お互いの想いを理解するために語り合う努力を続けていけば、いつかきっと、足りなかった部分を補えるようになるんじゃないかな。 話し合うことを諦めずにいれば…いつか、お互いを想う気持ちが釣り合うようになるって、オレは信じてる」
「──有理」
「人はっ、…愛する人と分かたれて産まれたその淋しさを埋めるために、愛し愛される気持ちを求めるんだ」
子供の時分から、親に対して口ごたえすらしたことのない大人しい子供だったその殻を捨て、強い意思の籠った言葉を話す有理を、澄友は感慨深げに見つめる。
そんな眼差しに見つめられることに照れを覚えながらも、有理は想いを言葉に変えて話し続けた。
「不安に感じることがあったら、素直に言えばいいんだよ。 幸いオレたちは同じ言語が使えているんだし、言葉足らずなことがあったなら、謝ればいいんだ。…今すぐには無理かもしれないけれど、父さんが誠心誠意母さんと向き合えたなら、きっと母さんも、父さんがもうどこにも行かないって、分かってくれると思う」
「…ああ」
息子からの、精一杯の励ましの言葉。
本来ならば恨み言ばかりを連ねられてもおかしくないと思っていた澄友は、それとは真逆の言葉をかけてくれた優しさに触れて涙ぐむと、心からの笑顔を有理に向け…口を開いた。
「ありがとう──本当に、すまなかった」
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