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(まさか)
この陽気で、具合が悪くなったりしていないよな、と思いながら、空を仰ぐ。
──高く澄み渡った空には雲一つなく、太陽から零れ落ちる陽射しがじりじりと音を立て、地上を焦がしている。
駅前を行く人波は途切れず、中には少年に気がつきちらちらと視線をくれる人もいたが、誰一人として項垂れている彼に、声をかけようとはしなかった。
「…して」
ミーンミンミンミーン、と、耳朶の奥で蝉時雨が輪唱しているように聞こえるほどの音量で響き渡り、照りつける陽射しの中で立ち尽くす有理のこめかみを、汗が滴り落ちた。
(どうして誰も、声をかけようとしないんだよッ!)
そんな苛立つ気持ちに拍車をかける蝉の声に背中を押された有理は自転車のサドルから手を離すと、通りすぎるだけの人たちを掻き分け、少年の傍へと駆け寄った。
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