4人が本棚に入れています
本棚に追加
「分かった! じゃああんたスマホ貸しなさい」
「へ……?」
諦めさせるつもりで言った事だったのだが、舞は俺からスマホを取り上げるとカメラを自分に向けながら語りだす。
「八代舞二十四歳! 今からこの修二の家で寝ます! 明日は休みだから思いっきり寝ます! 良いか~未来の私~散々私のやけ酒に付き合って寝床まで提供してくれるんだから警察とか呼んじゃダメだぞ~! 分かったか~! よーし終わり! 修二行くぞ~!」
「という訳でして……」
スマホに残されたムービーを観て舞は硬直している。
時刻は午前十一時、ぐっすりと寝た彼女は目を覚ますなり俺を「寄るな、変態! 痴漢! ケダモノ!」と詰り、先ほどまで部屋にあった携帯ゲーム機だのテレビのリモコンだのを散々俺に投げつけていた。
勿論何もしていないし、ベッドを彼女に占領された俺は一睡もしていない。だが朝起きたら見知らぬ男の部屋、もとい記憶上は見知らぬ男の部屋だったのだ、こうなるのも無理はない。
そんな錯乱状態の彼女が一発でこうなった所を見ると、ある意味このムービーは酔った彼女のファインプレーと言っても過言ではない。
「えっと……修二君……で良いのかしら? その私、何て言ったら良いのか……」
顔を真っ赤にしながらしおらしく黙り込む舞を見て、「数時間前まで高笑いをしていた彼女は一体どこへ消えてしまったのか?」と驚きを隠せない。
「あの……とりあえずこれどうぞ」
昨夜コンビニで買ったミネラルウォーターを渡すと彼女はまた申し訳なさそうにそれを受け取り口に運ぶ。
「それでね……その……この事は出来れば内密にお願いしたいのだけど……あと動画も消して……ください……」
「いや、そもそも共通の知り合いなんていないですし、別に言いふらすつもりも無いですよ」
「そ、そうよね。いやだ私ったら……」
この半年後、俺は会社の入社式で舞と再会する事となる。
おまけに彼女は俺の教育係となって向こう一年共に行動する事となるのだが、それはまた別のお話。
そしてムービーを消していなかった事から彼女に大目玉を食らうのも別のお話である。
最初のコメントを投稿しよう!