真夏の夜の悪夢

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真夏の夜の悪夢

 それは蒸し暑い夜の事だった。  眠気はあるのにエアコンをつけても寝付けず、ふわふわとした微睡みとカーテン越しに差し込む琥珀色の月明かりだけが俺を包んでいる。  徐にサンダルを履いてアパートの外へ出ると真夜中だというのに涼しさの欠片もなく、俺はただ惰性に近所のコンビニまで歩くことにした。  何か冷たい物でも口にすれば幾分マシになる程度の思い付きだったが、そもそもそれを胃袋に入れることすら億劫に感じるほど夏の気怠さは足取りを重くさせる。  アパートを出て数分歩き、角を一つ曲がった所にあるコンビニ、店に入ると深夜の一時を回っているというのに店内には十人余りの客が暑さから逃れるように屯している。  欠伸をしながら雑誌を立ち読みする男、弁当を物色するタクシー運転手、タバコを買うホステス風の女、そんな深夜のコンビニを象徴するような人物たち、当然Tシャツ、ジャージにサンダルという姿の俺もその一部なのだろう。  そのまま500mlの飲み物を数本買って店を出ると、店内との温度差が一気に押し寄せてくる。急ぎ冷房が効いているはずの部屋に戻ろうとビニール袋を肩から下げ来た道を戻る。  だが、もう三十メートルも歩けばアパートの正面玄関が見えてくるところまで来た時、 「部長のばーか! 社長のあほー!」  その声は近所の小さな児童公園からだった。  見ればスーツに身を包んだ女が一人ブランコに座り酒を呷っている。  俺は流し目に彼女を眺めつつ、そのまま通り過ぎようと試みるがこういう時に限って事態は悪い方向に転がる物である。 「ちょっとあんた! 何見てんのよ!」 「え? い、いや別に……」  彼女は立ち上がるとふらふらとまるでゾンビのように俺に近づいてくる。  最初は暗がりでよく見えなかったが、街灯に照らされた彼女を見て自分とそう変わらない年齢だという事に気付く。  薄いピンクの口紅を塗った彼女は所謂童顔で、少女が少し背伸びをしているようにも見えた。 「あんた名前と年齢は?」 「岡沢修二……21ですけど……」 「修二ね! あたしは舞、こっち来て一緒に飲みなさい!」  彼女はそう言うと俺の手を引いてブランコまで戻ろうとする。 「いやいや、ちょっと……俺無理ですって!」 「何よ……私の酒が飲めないっての……?」  舞は目を座らせたまま酔っ払いの常套句を吐き捨てると、俺の手を握ったまま今度はその場に蹲ってしまう。
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