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縁がぼんやりと薄赤い。
「ヨル、どうして泣いているの?」
「アカツキに会えたから。そして、アカツキと別れなくてはいけないから。」
「ぼくもヨルと離れるのは悲しいよ。」
「それだけじゃない。わたしはアカツキが羨ましいの。」
「ぼくが?どうして?」
「アカツキは、今から賑やかな小鳥たちのさえずりを聴くわ。水色の空を見ながら。そして、木々から射し込むこもれびを肌に感じるの。明るくて騒がしい世界の中で。わたしに一つだってできない事を、アカツキはいつもしているんだわ。」
「それなら、ぼくはヨルが羨ましいよ。フクロウの羽根の音に耳を澄まし、群青の空には月が浮かんでいる。森を抜ける微かな風は、優しく頬を撫でていく。密かで穏やかな時の流れる世界が、いつだってヨルを包んでいるんだろう?」
「アカツキはわたしを羨ましいと思っているの?」
「ぼくたちはお互いに、自分に無いものを欲しがっているんだ。」
「決して手にする事ができないものばかりだわ。」
「そう、だからぼくたちは惹かれ合う。欲しくてたまらないのに、手にできないから。」
「手にしている者を、もとめているの?」
「そうだね。だけどぼくはヨルが夜だから惹かれた訳ではないよ。」
「わたしだってアカツキが暁だから惹かれた訳じゃないわ。」
「ああ、時間だ。」
「こうやって、わたしたちはいつもすれ違うことしかできないのね。」
「でも、また会えるさ。」
「そうね。また、会えるわね。」
「「それじゃあ、また後で。」」
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