新聞を読む男

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新聞を読む男

 毎朝乗っている電車に、立った状態で新聞を読んでいる人がいる。  家でゆっくり読む時間がないとか、駅の構内で買うのが習慣になっているのかとか、色々思いながら何となく姿を見ていた。  そうしたらある日気がついてしまった。  その人はずっと同じ新聞を持っている。  俺から見える一面の写真や見出しは毎日同じ。そっと確認したら日付もずっと同じままだ。  電車に乗るたび同じ新聞を持ち込み、ずっとそれを読み続ける理由は何なのだろう。  どうしても気になって、どこの誰かも知らない人なのは百も承知で、今朝、俺はその人に話しかけた。 「あの…いきなりすみません。つかぬことをお伺いしますが、どうして毎朝ずっと同じ新聞を読み続けてるんですか?」  俺の問いに、新聞に向いていた男の目がこちらを向く。その無機質な様子に内心怯えていたら、男はひどくだるそうに言葉を吐き出した。 「どうしてと言われても、死んだ時に持っていたのがこれだから、新しいのには変えられないんだよ」  その一言の余韻が耳から消えるより先に、俺の視界から男が消えた。  あまりのことに驚きすぎて悲鳴すら上げられなかったのは、電車内という状況的にラッキーだった。  自分には霊感なんてないと思っていたけれど、どうやら俺は毎朝見えてはいけない存在を見続けていたらしい。  翌日は、同じ車両に乗るかどうか迷ったが、意を決していつもの車両に乗り込むと、そこにはいつも通り、新聞を読んでいる男がいた。  今日も同じ新聞を読んでいる。いや、読むというより儀式的に眺めているだけだろう。  幸い俺に声をかけてきたりはしてこないから、話しかけられない限りあの人は新聞しか見ないようだ。  あの人が亡くなった理由は俺には判らないけれど、死んだ後、毎朝同じ新聞を見ながら電車に揺られ続けるのか。  一日も早くあの人の苦行が終わりますように。 新聞を読む男…完
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