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キシは僕の顔を仰向かせて、キスをした。さっきと同じように、唇が触れるだけのキスから、キシはやさしく包み込むように僕の唇を味わい、そのうち口の中をゆっくりと愛撫するようなキスをし始めた。霧がかかったように頭がぼんやりしてきて、キシのシャツの背中を両手で掴むと、キシは僕を支えるようにさらに強く抱きしめた。 時々会っている相手がいた。大学時代の先輩で、初めてつきあった男性だった。一年前に別れたはずなのに、ずるずるとたまに会っては、寝るだけの関係になっていた。 早くキシに言っておいた方が公平だと思った。 キシは僕の質問に答えたんだから(どうして?と聞いた答えが、かわいいので、だと思った)。 そして、キシは僕が見ていることに、気づいていたんだから。 でも、キシが深く考えるなと二度言ったのが地味に効いて、その夜、僕は言わなかった。遊びなら、公平不公平とか要らないわけだし。 キスの後、僕の頭をぽんぽんと軽く叩いてキシは体を離すと、両手でめがねを外して、背後のテーブルに置いた。 「シャワー浴びてきて」 「うん。めがね外したの初めて見た」 「おお」 じっと見ていると、キシは「ふふん」というさっきと同じ顔をして、 「なんでそんな見るかな。面白い?」 と言った。 キシさんの顔が好きなんだよね、と喉元まで出かかったが、それも言わなかった。 「好き」という言葉は穏当ではない。面倒だと思われるのもこりごりだ。 「シャワー、一緒に浴びよか」 と僕は言った。 キシは一拍おいて、 「狭いから無理」     
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