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「さっぶい!もー、なんですぐ開けてくれないの?」
「お前の胸に聞け」
「丈さんの冷たい態度に凍えて反応がない」
「カニだけ置いて帰れ」
「嘘です急に来てごめんなさい」
「お邪魔します。すいません、エディが東雲家に突撃するって言って聞かなくて」
「真剣に止めたとは思えねーがな」
「――あの、でも」
喧騒に近い会話にそっと割って入る遠慮がちな声を、しかしこの場の誰も無視できない。三対の視線を集めた彼は、はにかんだ顔で言うのだった。
「みんなで年越しできるなんて、嬉しいです」
「ひなっちゃん……!」
「天使……!」
「いいからとっとと入れ」
丈は日夏を抱きしめる二人の男を引き剥がし、手荷物を奪い、居間に追いやる。
「ったく」
「びっくりしましたね」
すっかり気の抜けた様子の日夏を見て、ああずいぶん緊張させていたのだなと知る。つられて口元が綻んでいくのを感じながら、何気ないふりで屈み込み、日夏の頬から口付けを掠め取る。目を丸くして頬を押さえた日夏は、それから、その純情な仕草のまま蕩けるような笑みをこぼすので、丈は堪らずに天井を仰いだ。
「お前には叶わないよ」
第一章 おわり
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