ゆく年くる年

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「ひなっちゃん、よく寝てたね」 「すいません」 「こいつに呑ませたお前らが悪い」 「ごめんよ、ひなっちゃん」 「や、あの、俺も呑みたい気分だったから」  雰囲気にあてられて呑んでしまったが、酒に弱い体質が急に治るわけもない。炬燵の上にはうまいところは食い尽くされた風情の鍋が今はもう冷え冷えと取り残されており、その脇にはカニの殻と鶏の骨がぎっしり詰まった皿と、空の缶ビールや缶チューハイがひしめいている。寝ている間に、酒宴はすっかりお開きといった様子だ。けれど、宴の後の食卓も、それを囲む人たちが去ってしまわなければ寂しさはなかった。 「あ、始まるかな」 「もう一回くらいCM挟みそうじゃない?」 「いや、カウントダウンって始まるまではうだうだしてるけど、案外唐突だよ、すぐ終わるし」 「それはある」 「時計見りゃいいだろ」 「――丈さん、鋭い」 「ちょっと便所」 「待って丈さん、始まる、始まった始まった、ひなっちゃん掴まえて」 「あ、はい」  エディの指令に従って、立ち上がりかけた丈の手を掴む。ごつごつして、少しかさついた指。朝倉がテレビにリモコンを向けると、一気に大ボリュームになった画面の向こうから騒々しいカウントダウンの声が聞こえてくる。 「にー、いち」  大きなテロップが踊り、喝采が上がる。 「あけましておめでとー」  口火を切るのはやはりエディで、 「おめでとうございます」  朝倉がそれに続く。 「おめでとさん」  苦笑がちに言った丈が握ったままの手をわざとらしく握り返してみせるので、慌てて手を放す。日夏は崩していた両脚をそそくさと正座にして、三人を見回し、頭を下げた。 「あけましておめでとうございます……あの、昨年はほんとにお世話になりました。今年もよろしくお願いします」  顔を上げてもう一度見回すと、エディの碧い眼にも、朝倉の穏やかな口元にも、横顔の丈の頬にも、温かい笑みが浮かんでいるのがわかる。思わず目の奥がぎゅっと熱くなったのをごまかしたくて、日夏は前髪をくしゃくしゃっと握って引っ張った。
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