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 少し遠くで、女性達のさざめき合う声が聞こえる。異国人のホステス達は一様にコートの前をかき寄せながら、これからタクシーを拾うのだろう、表通りに向かって歩いていく。すれ違いざまにこちらに気付いて気安い仕草で手を振り、丈は顔見知りの彼女達とフランクな英語で二言三言、言葉を交わす。 「気をつけて」  ポケットから出した手を軽く掲げた丈に、彼女達はめいめいに頷いて、明るい通りに消えていった。  丈にとっては、よく知った街での、よく知った女達との、よくある出来事の一つ。こういう時自分はなんとなく疎外感を覚えて、その大きな背中に隠れてしまう。ちらりとこちらを振り返った丈は、やはり無言で笑うと、またゆっくりと歩き始めた。ダウンの擦れる音がして、 「ほら」  素っ気なく言われたことがすぐには理解できなかった。数秒経ってやっと意味を知り、日夏は慌てて首を横に振る。 「いいです、へいき」 「そうか」  転ばないようにと差し出してくれた腕に、恥ずかしげもなく自分の腕を絡めることができたら、少しは可愛げがあるだろうか。あっさり頷いて、もう振り返らない丈の背中を追いかける。誰もいない、月明かりもない、ところどころで淡く光る外灯を頼りに、数歩先の大きな靴跡に自分の足跡を重ねて歩く。時々振り返ってくれる丈に、でも今夜はうまく話し掛けられる気がしなくて。前を歩く彼のダウンの裾に何度も手を伸ばしかけてはやめているうちに、古いアパートが見えてきた。  階段の前で立ち止まった丈が、人差し指を上に向けて言う。     
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