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 雪に慣れない自分には、この瞬間まで雪かきという概念がなかった。ニュースでは良く見るけど、どこか異世界の出来事のようで。ほんの数センチ積もったくらいでも、必要なんだろうか。丈が言うなら、きっと必要なんだろう。 「風呂沸かしといてくれ。こんな日は、あったまってから寝たい」 「……うん」  頷く日夏の頭を軽く撫でて、ほうきを片手に出ていく。  感触が去った頭をたまらずに自分で撫でてから、日夏は真っ暗な部屋を振り返った。まず台所と居間の電気を点けて、エアコンのスイッチを入れる。引き返して、廊下の奥へ進み、風呂場の戸を開ける。とびきり冷たい空気に身震いしながら浴室へ入り、氷のようなタイルにつま先を恐る恐る下ろす。古いアパートの、古い浴室だ。一面に薄い青のタイルが敷かれていて、浴槽の横にはガス給湯器がくっついている。カチカチッと給湯器の取っ手を回すと、小さな窓の中で、ボッと炎が上がる。蛇口を捻って湯を出して、十数分後、ちょうどいい頃合いに止めに来ないといけない。子供の頃、祖母の家の風呂場に同じような給湯器があったのを、いつも懐かしく思い出してしまう。  言いつけはすぐに終わり、ぽつん、とした気分になる。テレビを点けよう。それから、そうだ、やかんを火にかけておこう。きっとコーヒーが飲みたくなるから。    ドサリ、大きな物が降ってきたような音で、目が覚める。     
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