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「いいよ。まあ、別れて寝る理由もなくなったけどな」
なんでもない調子で言うから、息が止まりそうになる。
「いや、今は大ありだった」
それからすぐに前言撤回して、のそりと居間に戻ってしまう。彼の布団を抱え上げてこちらに運び、日夏の布団を同じように抱え上げ、向こうへ運ぶ。
「一応言っておくが、居間の……というか家のもんは全部好きに使っていいぞ。触られたくないもんなんてないからな、変な気は遣うなよ」
「……うん」
「お前ももう少し寝ろ」
「でも」
見た目よりずっと辛いのだろう。億劫そうに布団に潜り込むと、短い髪を掻き上げて、ため息を吐き、少し潤んだ赤い目をこちらに向ける。丈は呆れたように笑っていた。
「ほら、いいから寝ろ。まだ早いだろ」
追い出そうとする丈をどうやって説得しようか考えていると、目の前を大きな影が落ちていく。ドサッ……ドサリ。続けざまに雪が滑り落ちたのだ。今度は、天井が少し揺れるくらいの勢いだった。
枕の上で首を動かした丈は、もう一度深くため息を吐いた。
「安いだけが取り柄の古いアパートだからな。耐震基準も満たしてないし、夏は暑いし冬は寒いし、おっさんには辛いってことか。考え時かもなあ……そうだ、日夏」
「はい」
「起きたら、何か作ってくれ」
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