第2章(2-1)

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第2章(2-1)

 冬の星を少し憶えた。  夜空にたくさんの名前が散りばめられていることに、ずっと気付かなかった。今にも燃えてなくなってしまいそうなほどきらめいているのはシリウス、他の二つと合わせて冬の大三角、昔習ったオリオン座もわかるようになった。それを辿っていくと、すばるがある。頭上にはあまりにたくさんの星が輝いていて、本当に同じものを見ているのか時々自信がなくなるけれど、指差し合った先がもしも交わっていなくてもいいと思う。帰りたくないのに他に帰る場所もなくて、スニーカーのつま先をじっと見ていた自分の頭上にあったあの夜空とは、まるで違うから。  二階建ての古いアパートは、自分よりも年上なのだという。開けるたびにきいきいと軋む集合ポスト、足音を響かせすぎる鉄製の階段を上ると、二階の角部屋が夜明け前の寒さにじっと耐えている。部屋は暗く、凍るように冷たくて、でも、やがて少しずつ温かくなっていく。電気が点いて、壁掛けのエアコンが音を立てて、テレビから声が流れて、台所のコンロに火が点いて、そのうちにやかんの笛が鳴って。     
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