2-2

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 夜半に降り始めた雪は、ゴールデン街の明かりが一つずつ消え、やがて呑み処東雲が店仕舞いになっても、止むことはなかった。  表のシャッターが下りる音が、今日はとても響く。  何年ぶりに見る雪だろう。  真っ暗な空から、白い雪が音もなく落ちてくる。ずっと見上げていると、空と地面が反転して、まるで自分があの真っ暗に落下していくような気分になる。 「転ぶなよ」  ダウンのポケットの中で鍵束を鳴らしながら、丈が戻ってくる。 「……うん」  上の空の返事に彼が無言で笑ったのだと、白い息が大きく広がってわかる。日夏の髪に落ちた雪を軽く払って、フードを引き上げると、自分のフードもひょいと上げる。少し目を細めて帰り道の方向を眺めて、また、無言で笑った。  地面にも、路肩に停めた車にも、歩道の端の欄干にも、全てに雪が積もっている。一歩踏み出せば、綿菓子のようなイメージとは裏腹に靴底がぎゅっと鳴る。路地裏にはまだほとんど足跡がなく、ぎゅっ、ぎゅっ、と鳴らしながらそこに一つずつ足跡を増やしていくのは、どこか特別な気分になる作業だった。     
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