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足跡だらけの雪の上で、何回か足を滑らせた。道行く人は皆平気そうな顔をしていたけれど、きっと同じように内心ではひやひやしていたと思う。ドラッグストアからスーパーに寄って帰るルートは少し遠回りで、やっとの思いで帰り着いたアパートの、鉄板が剥き出しになった階段を感謝しながら上る。丈が夜のうちに雪を除いてくれなければ、両手に荷物を提げた自分がほっと安心するのはもう少し先になったろう。
「丈さん、薬……」
奥の寝室へ呼びかけてみても返事がなく、ささやかな冒険譚を聞かせたい相手はすっかり眠っていた。
宝探しの後のような気分で取り残されたまま、丈の枕元に膝をつく。寝顔を覗き込むと、影が落ちてぐっと彫刻じみた印象になる。高い額から鼻筋のラインは苦しそうではないけど、きっと顔には出ないタイプだ。伸ばしかけた手を握って、戻す。こんなふうに寝息を立ててぐっすり眠る丈を、日夏はほとんど見たことがない。それもそうだろう。丈は茶化していたけど、今もまだ、別々の部屋で寝ているのだから。
だって。と、閉じた薄い目蓋を見つめる。
だって。本当に好きになってしまったのだ。
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