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一章 一幕 結婚式
知っているのと知らないでいることの間には、大きな差があると思うんだよ――。
この日、ヴァベラニア王国は賑わっていた。
ここ半年ほどで様変わりした城下町も、今日ばかりは祭のように盛況だ。
灰色の石造りの家々は色とりどりの布で飾られ、あちらこちらで乾杯の音頭が飛び交っている。
花が舞い、それぞれめかしこんだ市民が踊り、石で舗装された道路にも祝いの絵が其処彼処に描かれている。こうしておけば、小高い丘の上、さらに高い王城の露台からも見えるだろうという事だろう。
何も城下町だけがこのように浮かれているわけでは無い。
広大な国土の中、村や町で、集落で、様々な人が今日ばかりは労働の手を止め、盃を手に笑っていた。
国中の皆が皆、今日という日を祝福しているのだ。
城壁を隔てた王宮内部も、国中の貴族諸侯、及びに近隣の国の貴族や使節、果ては王家に覚えの良い大商人まで、大神殿にひしめき合っていた。人々は色とりどりの礼装に身を包み、まるで春の花畑のようだ。ただし、真紅と白の衣装を着た者は来賓の中には居ない。
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