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シャイアは笑いながら手を振ると、自分の寝室へ侍女二人を伴って入っていった。
しかし、ナタリアは彼が部屋に入るまで、顔を上げる事ができなかった。
「王妃様……?」
訝しんだ侍女に声を掛けられて、ようやく顔を上げる。
(何故……、私は表情を漏らしただろうか……? いいえ、いいえ……それだけは無いわ、なら、何故……)
なぜ、動揺したことがばれたのだろう。
たまたまだろうか。それとも、本当に分かっていたのだろうか。ナタリアの頭の中は忙しなく働きはじめたが、それをおくびにも出さず、侍女に大丈夫よと告げて部屋へと入った。
湯浴みを終えて、寝間着で広々としたベッドに入ると、侍女はランプの油皿に小さな火をともして出て行った。
(私はもう、自国では死んだようなもの。……話してしまっても、良いのだろうか……、いえ、いいえ。まだ、それを悩むには早計だわ……)
祖国に人質に出されたとしても、自分が祖国を売る事はできない。そんな考えを頭によぎらせた事すら恥ずかしい。
そうして考え事をしながら、ナタリアは布団の中で、まんじりともせずに朝を迎えた。
王の朝は早い。ナタリアが起きだすころには、すでに朝餉を終えて朝議に向っている。
夜の社交は女が主役だが、男は陽があるうちに働くものだ。
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