一章 一幕 結婚式

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 本来は清貧を由しとする神殿も、今日は祝いの品と飾りできらびやかである。真紅の天鵞絨に金糸で王家の紋章を縫い取った綴織りが幾枚も天井から下げられている。祭壇の脇には、今は神へと奉げられている宝飾・反物に始まる祝いの品の数々が並んでいた。色硝子から差し込む光で、眩しい程に輝いていた。  今日は一年前に即位したばかりの王の結婚式である。戴冠式以上の賑わいも、祝いの品も、推して知るべしというものだ。  いかな『敗戦国』とはいえ、今日ばかりはどこも彼処も、国中がお祝いの色一色なのも頷ける。  様々な国々からの使節や『勝戦国』の侯爵も招待され、この日ばかりは下座にて、主役二人の結婚式を見守るようだ。  神殿の重厚な木扉が開く。  祭壇の前にいるこの国の王――黒い瞳に濃茶の髪をした、聡明そうな青年――は、重く開かれた扉の音に真紅の外套を翻して祭壇からそちらへと向き直った。  戸口に立っているのは、純白に銀糸の刺繍、瞳と同じ浅黄色の宝飾品を着けた、彼の妻となる女性……ナタリア・ソロム・オペラが、今日から夫となる王、シャイア・ガルバンド・ロウ・ヴァビロンを静かに見詰めていた。  ナタリアと目が合うと、シャイアはにこりと笑ってみせた。少し面食らった花嫁は、静々と彼の元へ、父であるソロニア帝国のオペラ伯爵に導かれて進んでいく。     
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