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「そうなんだよ、人はいいんだ。本当はね。……みんな不安なんだよ」
少しばかり自嘲気味にシャイアが告げる。
不安なのだ。昨年の突然の戦に駆り出され、親兄弟を失った者もいる。領主である先鋒の将を失い、直轄地として治められている者が居る。なるべく気を配りはするけれど、戦の理由も分かってくれてはいるけれど、即位してすぐ攻め込まれ敗けるような王では、皆が不安に思うのも致し方無い。
「シャイア様……?」
いつもの明るい様子からの僅かな差に、ナタリアが心配そうな声をかける。相変わらずの能面だが、声だけは彼を労わっているのが分かる。
「あっはは、なんでもないなんでもない。さぁ、食べてしまおう。今日はまだ書類が残っていてね」
シャイアが笑い飛ばしたので、ナタリアはそれ以上口を出す事はしなかった。
書類というのは、今日の地方領主からの謁見の際に、近隣の領主や富豪から預かってきた嘆願書の数々だろう。主に資金融資の件だが、その八割が今日のような詐欺紛いの物だと思うと気が塞ぐ。面倒臭い。
気配を敏感に察知して、ナタリアが口添えする。
「でしたら、後で何かお差し入れ致します」
「本当かい? オペラ領の郷土料理とかが食べたいな」
「……軽い物でしたら」
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