一章 六幕 図書室

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一章 六幕 図書室

「どうも、西がきな臭くてね」  晩餐の席でシャイアがそう切り出すと、ナタリアは黙って食器を置き先を促した。 「ナタリアはまだ外に出ない方がいいだろうね。まだ出す積りも無いけれど、もう少し落ち着くまでは」 「はい。まだ王宮での予定も詰まっております」 「だろうね、私もだ。……だからこれは、斥候に出している者からの報告と西の領主の嘆願書からの推測なのだけれど……本当に賊が出ているようなんだよ」  西、賊、と聞いて思い当たるところがあるのか、ナタリアはひとつ頷いた。 「ウルド山脈ですわね」 「あぁ。東にある国境付近は私の直轄地だが、西は違う。あそこには国境線は無いから領主に任せてある。戦の時分には鳴りを潜めていたのだけれど、また何やら騒ぎが起きているんだ」  シャイアの話によると、収穫した穀物と家畜を狙ったものらしい。今は麦と米という主流の穀物の収穫期であると同時に、羊の毛刈りの時期でもある。西は特に米と羊が盛んで、冬に備えて備蓄をしているという。  羊は少しばかり遅れても構わないが、穀物は収穫期を逃しては大変だ。だから、まだ毛を蓄えている家畜と穀物の両方を狙うには、今は絶好の時機とも言える。     
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