一章 六幕 図書室

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 物騒な話を切ったのは、いつもは控えめなナタリアである。図書室に行きたい、というおねだりなんて可愛らしい事を先と同じ口で言うものだから、シャイアも少し理解に戸惑った。だが、それは図書室行きを阻むという意思ではない。 「ん? あぁ、いいよ。いつでも使って。この城の見取り図なんかもあるから、そのうち案内しようとは思っていたんだけど」  ナタリアに見せられないものは無いよ、とばかりにシャイアは頷いた。 「いえ、まだそこまでは……少し調べたい事ができましたので」 「うん、じゃあ明日ローザに案内させよう。シーヴィスでもいいけれど」  シーヴィスは執事長の名前である。王宮の表を取り仕切るのが宰相ならば、裏方を取り仕切るのが彼だ。何も案内をしてもらうのに、彼の手を煩わせる事も無い。 「ローザにお願いしますわ」 「分かった。じゃあ明日からでも、好きに使って構わないよ」 「ありがとうございます」  ナタリアが案内されたのは、サロンを三つほどくりぬいたような大きな部屋だった。  一階の端に位置しており、天井に届こうかという書棚が所狭しと並んでいる。それぞれの書棚の端に梯子があり、物によってはそれを扱うらしい。伯爵家の図書室も大きなものだったが、ここまでではない。優に十倍は蔵書があるだろう。文明的に遅れた国、というには些か躊躇われる程に。まさに圧巻である。 「まぁ……、素晴らしい蔵書の数ですわね」     
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