一章 一幕 結婚式

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 この真紅の絨毯の上を歩く時、普通の花嫁ならば何かしら思う事もあるのだろうが、ナタリアは泣くでも笑うでも無く、ただ無表情に王の元へと向かっていた。幸い、ヴェールと幾重にも重なった生地を踏まないように軽く俯いていたおかげで、それは客には知る由もない事だが。  オペラ伯爵も、微笑んではいるが、内心はどうだか分からない。何せ、これは所謂『政略結婚』であるからして……それでも、伯爵の地位で他国、それも敗戦国とは言え王族に名を連ねるのならば、少しは喜んでもいい筈だが、その表情は読めなかった。  やがてオペラ伯爵がシャイアへとナタリアを委ねると、今度はシャイアに導かれるまま、祭壇の上へと一歩上がった。後ろへ大きく垂らしたドレス生地が、慎ましやかに衣擦れの音を立てる。  黒羽色の髪を綺麗に結い上げ、純白の重厚な衣装を着た花嫁は、滞り無く誓いの言葉を述べると、王と共に結婚証明書へと署名をした。  それまで静まり返っていた神殿は、拍手と祝いの言葉で埋め尽くされたが、ナタリアの表情は微笑む事もしなかった。  それは披露宴でも続き、露台で国民に向って顔見世する時も変わらずで、対照的に明るく笑い手を振るシャイアの隣では酷く目立っていた。  造りだけは、頭の先からつま先まで美しく完璧なナタリアだが、愛想というものは忘れて生まれてきたようだ。そして国中で、近隣諸国で、そっと囁かれるのである。  ヴァベラニアの王は、人形姫を嫁にもらった、と。
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