一章 二幕 戦の理由

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 守らなければならない。――分かっていたとしても、ぎらぎらと輝く穂先の槍を携え、揃いの鎧を着こんだ一糸乱れぬ敵軍を前に、余りにも技術も練度も足りなさ過ぎた。自然に守られる代わりに、文明の発展が一歩も二歩も遅れてしまっていたせいだ。  数だけはいるヴァベラニア王国の迎え撃つ五万の兵、しかし、技術で、練度で、気迫で負けた集団は、あっけなく先鋒から崩された。  時期も悪かった。先代の王が亡くなり、追って年若い王が即位したばかりだったのだ。  国は自分の事で手一杯であり、外へと目を向ける程落ち着いていなかった。だから、隣国の戦火の予兆に気付くこともできなかったのだ。完全に後手に回り、そして。  先鋒の将が討ち取られた所で、ソロニア帝国から和平条約……当然ながら、ソロニア帝国に有利な不平等条約であるが……が、持ち掛けられた。  このままでは肥沃な大地をすべて血の道に変え、王宮まで向かわんとする勢いであった。  即位したばかりの王は、これを一も二も無く呑んだ。民草や国土が血で塗れる位ならば、と。  食糧に関する問題と移民問題、それに関する護衛等の措置、国境線の改めによって国土の三分の一を失う事になったヴァベラニア王国だが、王はそれを呑んだのだ。当然、ソロニア帝国側に飲み込まれる事になった領主からは非難の声があがったが、王は首を横に振るばかりで取り合わなかった。それしか出来なかったのだ。     
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