一章 二幕 戦の理由

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 そして、ヴァベラニア王国のシャイア・ガルバンド・ロウ・ヴァビロン王はソロニア帝国王宮へと赴き、和平条約に調印した。  これが、一年前の『シサリス戦争』である。  今では改められた国境線に合わせて、長い国境壁と、あらゆる所に関所が建っている。  ヴァベラニア王国側からは、その壁の向こうを伺い見る事は出来ない。長閑な田畑の中に連なる巨大な壁は、どこか滑稽ですらあった。  国境付近の統治はどの貴族もやりたがらず、国営地となった。  やがて人々は、国境線を目にしながらも、日常に戻っていく。前よりも貧相になった食卓でも、何とか暮らしている。  和平条約には、ある取り決めも含まれていた。  シャイア王は独身である。故に、ソロニア帝国王家傍流の貴族から、妻を娶らせる、と。  まるで属国の扱いだったが、シャイア王は気にしなかった。その条件も飲み、そしてあの盛大な結婚式の場で、自分の妻と初めて顔を合わせたのである。  オペラ伯爵の娘、王族の血など希釈に希釈を重ねてもはや一滴や二滴含まれているかという、傍流も傍流の、しかしどこまでも美しい人形のような美女。  シャイアはその愛想の無さも何も、委細気にしなかった。  こうして、彼女の手を取ったのである。
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