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「いやぁ、ごめんな。でもせっかくの三連休だし初日くらいちょっとは寝坊したくなるじゃん?」
「そうかな? 僕はいつも通り起きた方が調子いいけど」
あっけらかんとした玄徳の態度に特別腹を立てている様子もなく、孔明は淡々と答えた。
いや、退屈していたといってもおかしくはない。
「ん? なんだよ」
玄徳が机で二つのディスプレイを操作する孔明の隣に駆け寄った。
「まーた、チェスと将棋かよ。相変わらず飽きないなぁ」
「まぁね」
適当に返事をしつつ、チェスの盤面で黒のQb4を動かす。
「これってどういう状況なんだ?」
「んー? 先手の白が僕のカウンターに対して、カウンター返しを狙っているって感じかな」
「へぇ」
孔明には相手のa3による急戦が見えていた。
こちらのクイーンを狙われる前にNxe4と黒のナイトを進めておく。
「これで相手は攻め手を潰されたから動きが鈍るね。ここからの勝負は早いよ」
「ふーん、全然分からん」
「こっちの対局もほぼ終盤かな」
孔明は横で首を傾げる玄徳を尻目に、ぐんぐん駒を進めていった。
やがて二つのディスプレイから対戦相手からの投了(降参)宣言のアナウンスが響き渡る。
「おおっ! すごいな!」
玄徳が手放しにはしゃいで喜んだ。
孔明は背もたれによりかかって、一息ついた。
ディスプレイを閉じる。
「上手く形にはまっただけだよ。いつもこんな風に勝てる訳じゃない」
「そもそも普通の奴は将棋とチェスを同時に遊ぼうなんて思わないぜ」
玄徳が呆れたように椅子に座る孔明を見下ろした。
「ほんと変わった奴だよな。同時に別々のゲームなんかやって、頭こんがんないの?」
「二つの盤面に対して別々の思考をするだけだからね。慣れればたいしたことないよ」
「いやいや! 真剣にやれば将棋でもチェスでも良い所いけるんじゃね? 藤井聡太郎だって俺たちの年齢くらいにはプロになってたんだしさ!」
「簡単に言うね」
孔明がお気楽な玄徳をジト目で見つめた。
「プロになれるのは才能と運と努力を積み重ねた一握りの人間だけなんだ。僕みたいな中途半端な奴はだめだよ」
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