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「えー、そうかなぁ?」
「それに。僕には熱意がない」
孔明が寂しそうに呟いた。
吉田孔明は、今年で十四歳になる地元中学校に通う中学二年生の少年だ。
幼馴染の春日玄徳と一緒に学校へ通い、時々玄徳の勉強を面倒見たり遊んだりしながら、何の変哲もない普通で穏やかな日常を過ごしていた。
ただし孔明の思考能力(スペック)は同世代の子供たちに比べて驚く程に高かった。
水鏡先生という数学界の権威とまで呼ばれた有名大学の教授の開いた私塾に、幼年期の孔明と玄徳は通っていた時期があった。
水鏡先生曰く。
【孔明はまるで臥龍のようだ。彼は自分の余りある知識欲と思考力を持て余している。彼が雲雨を得て天を翔ける昇竜に成れないのは、彼にとっての雲雨となる『何か』が足りないせいだろう】
と、そのような言葉を孔明の両親に語った。両親は水鏡先生からの評価を手放しで喜んだが、肝心の孔明は成績を常にトップでマークし、大人も顔負けの難解な問題をまるでゲームで遊ぶように解いていった。必然、周りから浮き始めてきてしまった彼は自分の能力を適度に押さえ込むようになり、他の子供たちから距離を取るようになった。今では幼馴染の玄徳くらいしか孔明に近付く者はいない。
「……もっと面白いことってないのか」
孔明が椅子によりかかり、天井を見上げながら呟く。
「あるぜ、面白いこと」
そんな孔明の顔に、玄徳の顔が覆いかぶさった。
「毎日の繰り返しに飽きている孔明に良いものを持ってきたぜ!」
「玄徳、近い」
「見てみろよ! これだ!」
玄徳は孔明の抗議なんか軽く無視して、今日わざわざこの時の為に以前からこっそりと準備していたとある物を鞄から取り出して、孔明に見せつけたのであった。
玄徳が鞄から取り出したのは、パッケージされた一枚のゲームディスクであった。
「なにそれ?」
「なにって『スリキン』だよ! 今一番熱いフルダイブ型オンラインゲーム『スリーキングダム』! お前だって知ってるだろ!?」
「まあ、ネットのニュースくらいでは」
孔明は興味なさげに答えた。確か動員数接続数、世界ナンバー1を謳い文句にした人気オンラインゲームだ。今流行りのe‐sportsにも登録されているゲームタイトルだと孔明は記憶している。
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