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「なぁ、玄徳」
「…………」
玄徳の意識はすでにデータ世界へと没入しており、孔明の声はすでに彼には聞こえていなかった。
孔明は試しに玄徳の脇腹をくすぐってみた。
くすぐられた玄徳の身体がびくびくっと活きの良い魚みたく跳ねたが、それぐらいの刺激ではデータ世界に没入した玄徳の意識はこちらに戻って来ることはなかった。
孔明は少し呆れていた。
人の部屋で勝手にゲームを始めて、ベッドを占有して、こんな無防備な姿をさらけ出す玄徳の行動がまったくもって理解できない。もちろん誘われて断った孔明も良くなかったが、この春日玄徳という少年はともかく自分をさらけ出すことに躊躇しない奴なのだ。
約束に遅刻はするし、人のベッドは勝手に使うし。だけどお古のゲームデバイスをわざわざ持ってきて一緒に遊ぼうと誘いかけてくるようなお人好しな少年でもあった。
孔明は本棚から読みかけだった本を取り出して、椅子に腰かける。
誘いを断ってしまったけれど。
玄徳と一緒にいる時間は別に嫌いではなかった。
次の日も玄徳はゲームデバイスを持って、孔明の家へとやってきていた。
「よぉ! 孔明! 一緒にゲームやろうぜ!」
「また来たのか、君は」
「いいじゃん、別に! 今日は昨日よりも早く着いたぞ!」
「そうは言っても待ち合わせから一時間遅れているけどね」
「固いこと言うなよ! 今日もベッド借りるぜ!」
「一体君は何しに来たんだよ……」
結局この日は昼から夜まで孔明の家でスリーキングダムを遊び倒した玄徳は、吉田家の夕ご飯までご相伴にあずかりながら、満足げに帰っていった。
孔明はもう明日の展開がどうなるのか、この時点でうんざりするくらい予知していた。
三連休、最終日。
「やぁ! 孔明君! 俺と一緒にゲームやらないか!」
三度目の正直と言わんばかりに、二つのゲームデバイスを持った玄徳が孔明の家を訪ねてきた。
三度目ともなれば、さすがの孔明も多少はなびく。
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