カミカクシ。

8/9
前へ
/9ページ
次へ
「まあ、それでも。未だに人が行方不明になって死体が出なけりゃ、それは神隠し扱いされたりするわけだ。そうやって、人間どもがながーい間“これは神隠しじゃぁ!”って騒ぐもんだからな。いつの間にか、“神”とも“人間”とも違う、“カミカクシ”っていう名前の物語が一人歩きして…形を持つようになっちまったんだよな。つまり、それが、ワタシたちってわけなのさ」  マジかーって思ったね。  神隠しっていうとめっちゃ壮大そうなのに、なんでこんな駐車場なんかにいるんだろうなってさ。  そう言ったら、だってワタシはたくさん人間がいるところにいないと意味がないからねえ、ときた。 「ワタシは“人を食う”ことを望まれて生まれたアヤカシなのに、人が誰もいない山のなかでのんびりしていても意味がないじゃないか。だから、こうして少し目立たない場所で、いつもワタシがワタシをやれる瞬間を待ち望んでいるというわけだよ。こういう駐車場の縁石の影、真っ暗に切り取られた場所なんておあつらえ向きだと思わないかい?だって、こんな時間に、駐車場の縁石に座ってぐだぐだタバコでも吸ってる奴なんてろくなもんじゃないだろう?」  けらけらとそいつは眼だけで笑って見せたんだ。  確かにろくなもんじゃないかもなあ。真夜中のコンビニ使う人間にだって普通の奴は少なくないし、深夜まで仕事をしてた帰りの人たちなんてそりゃもうお疲れさまってなもんだが。  こんな場所に座り込んで、クルマの邪魔して、人様の迷惑省みずタバコのゴミ捨ててくような“子供”なんてほんと、ろくでもない。なぁ、そう思うだろう? 「大人の忠告を聞かないで、真夜中に遊び歩いてるような“悪い子”は、“神隠し”に遭うってなもんだ。つまり、ワタシは“ソウイウモノ”だから此処にいて、此処が一番相応しいんだよなぁ。な?黒猫、お前もそうは思わないかね?」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加