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(あれは――……やっぱり、畠山ユウだよな? )
トイレに行くフリをして、ファーストクラスに座るその顔をチラリと確認したが、まず間違いないだろう。
ドキドキしながら、白川奈津緒は自分の席へ戻った。
高揚したその様子に気付いたか、隣の席のマネージャー加井瑛斗が声を掛けてくる。
「どうした、ナツ? 」
「加井さん! 実物見ちゃったよ~誰だと思う!? 」
「え……ファーストクラスか? 」
「そう!なんと、畠山ユウ! 一緒の便に乗ってたみたいなんだ! どうしよう、サイン頼んだら貰えるかなぁ? 」
嬉しそうに報告する奈津緒を横目に、加井はハァ~っと溜め息をついた。
「ナツ、もうじき到着だぞ? 向こうには日本のカメラだって待ち構えてるんだから、そんなヘラヘラした顔はするなよ。お前だって、今は畠山ユウに負けないだけのネームバリューがあるんだから……それに、お前のイメージはあくまで『クール・ビューティー』だぞ」
マネージャーの忠告に、奈津緒は一瞬ムッとなりながらも、次に嘆息してシートベルトを締めた。
(……はいはい、わかりましたよっ。何だよ、オレのイメージなんて勝手に決めてさっ)
――――ナモ公国へ、各国からスターが集結している。
参加資格を満たしたミュージシャン、アーティスト、パフォーマー、ダンサーが続々と。
今回、その枠に奈津緒が滑り込めたのは、本当にラッキーだった。
日本予選で白川奈津緒は次席敗退だったのだが、優勝した森吉リッキーがその後薬物で捕まり、繰り上げで奈津緒が出場出来ることになったのだ。
ちなみに、同じ日本人の畠山ユウはフリーの『ネット枠』での支持がダントツで、こちらは去年に引き続きの出場となる。
日本枠では、奈津緒とユウの二人が【MHJ in World】へ招待される事となったワケだ。
奈津緒は、畠山ユウをよく知っていた。
一時期は死亡説まで出る程の落ち目となり、七虹プロをクビにまでなったユウが、奇跡のリベンジを果たして再び芸能界で輝く様は、見ていて最高に痛快で、強烈に憧れた。
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