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 ああ、自分もこうなりたいと思うほどに。  しかもユウの歌声は、不遇だった年月があったにも関わらず、ますます奇跡の音域を誇り、同じミュージシャンとしても嫉妬を感じるくらいに美しい。勿論、その容姿も。  まさに、彼こそ現代のセイレーン! (……クール・ビューティーなんて野暮ったいイメージなんかじゃなくて、オレもセイレーンとか、そっちの方が良かったなぁ)  奈津緒のルックスが、色白で切れ長の目に柔らかい眉をしてクールっぽかったので、事務所が勝手にクール・ビューティーなんてイメージを押し付けてきた。  しかし実際の彼は、非常におっとりとした性格で、とても『クール』とは程遠い。 (姉ちゃんには笑われるし、妹にはバカにされるし……もう、最悪だよ)  奈津緒はそう内心で嘆息すると、やっぱり畠山ユウのサインが貰いたいな……と思いながら、椅子に深く腰掛けた。    ◇  高校最後の夏休みを、どう過ごすかは、人によって異なる。  大学を目指して勉強するもよし、専門知識を身に付けるべく専門学校への道を模索するもよし、就きたい職業を踏まえて、将来の為に下準備をするもよし。  緒野田(おのだ)(けい)阿嘉島(あかしま)幸樹(こうき)の高三コンビは、三択の最後である『就きたい職業を踏まえて将来の為に下準備をする』道を選んだ。  エコノミーで片道六時間のフライトも、あと残り一時間を切ったところである。  そのタイミングで、幸樹が口火を切ってきた。 「しっかし、径の叔父さん、そんな有名なスタイリストだって全然知らなかったなー! 本当にマジなんだろうな? 」  友人の幸樹の疑うような声に、径は少しムッとして口を開いた。 「なんだよ! 証拠の写真見せただろう! 」 「まぁ、見たっちゃあ見たけど……」  径から見せられたスマホには、およそ径とは似ても似つかぬ厳つい髭男が、スーパーモデルのREI・HIIRAGIとツーショットを撮った写真が写っていた。 「…………オレ、お前の叔父さん自体に会った事ねーから、これが本人かどうかも……」 image=511158659.jpg
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