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「そんなに疑うんなら、向こうに到着したら日本にとんぼ返りしろよ! 何だよ、将来スタイリストの仕事をしたいから、現場を知っておきたいって言ってたくせに――」  せっかくの夏休みを、友人の職場体験の為に潰した径は憤慨する。  径の叔父は緒野田太郎といって、業界ではタローという名で活躍しており、幾人もの有名人のスタイリストを担当したりして、その業界では中々の有名人であるらしい。  径の友人である阿嘉島幸樹は、それをどこで耳にしたのか、夏休みの間を径のコネでタローに付かせてもらって、業界の事を詳しく勉強したいと申し出てきたのだ。  まさか、それを学校の教室で頼まれるとは思っていなかった径は、衆人環視となった、周囲の期待と羨望の眼差しに釣られ、ついついその場の勢いで『おう!任せておけよ! 』と大見えを切ってしまった次第だ。  叔父と言っても、太郎は業界に多いらしいアッチ(・・・)の人なワケでもあり……正直言って、親戚ではかなり浮いており、径自身も太郎とはあまり話したことすら無いのに。  しかし、友人の幸樹に頼み込まれた手前もあり、渋々径は、母経由で太郎と連絡を取ってもらい、今回こうして渡航するまでに至ったのだ。 ――――確かに、幸樹はわざと制服を着崩したりして、普段から見た目を意識しているのは知っていた。髪も赤く染め、容姿も派手で、イケメンの部類に入るだろう。  幸樹が、ファッション業界とかモデル業界とか、そういうのに興味があるんだろうなとは、さすがに径も気付いていた。  しかし、真面目にその道へ進むことを考えて、真剣にタローの弟子入りまでを視野に入れていたとは知らなかった。  だから夏休み間、外国の『ナモ公国』で開催されるナモ・コレを体験したい、この目で見たいと幸樹が言い出した時は、径は本当に驚いた。  何だかんだ言って、チャラいだけと思っていた幸樹が実はマジで、将来の事をちゃんと考えていたんだ――――その事に、径は衝撃を受けてしまった。  径も、頭を金髪に染めたりして、それなりにファッションやお洒落に興味があったのだが、そんな真剣に『将来』の事など考えていなかった。  ただ、身の丈に合った適当な大学に入って、このまま楽しくキャンパスライフなんてのが順当だよな……くらいしか思っていなかった。
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