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尤もなユウの意見に、真壁も何か考えるような顔になった。
ここがチャンスと、ユウは畳みかける。
「まさか、ホテルから一歩も出るな、なんて言わないですよね? 」
「一応、ユウさんが宿泊するホテルにも……小さいですがカジノは有りますが……」
そのセリフに思い切り不満そうな顔をすると、さすがに同情したか、真壁はポツリと言った。
「――――そうですね、短時間なら……私も護衛に着くという条件なら、外出する時間を作ってもいいですよ」
「本当ですか!? 」
「ええ……でも、社長には内緒ですよ? 」
真壁の言葉に、ユウは心底嬉しそうに微笑む。
「よかったー! 日本からずっと忙しかったら、さすがに羽根を伸ばしたかったんですよ」
ユウの、父譲りの綺麗な笑顔に、真壁はホゥっと見惚れる。
「……でも、くれぐれも単独行動はダメですよ。この国は治安がいいと言われているけれど、それもあくまで表だけなんですから」
「表だけ? 」
「そうです。華やかなのは、見える部分だけです。ここも芸能界と同じですよ」
現にこうして、アジアの一歌手に過ぎないユウが、普段閉ざされている空港の特別のゲートを通るのだから。
ユウの父親である聖は、極道時代に何度か天黄の仕事絡みで、この国へ来ている。
このナモ公国は立憲君主制で、現在はヘイマン・ルドー・ナモ大公が実権を握っている。
その息子のマナ・ルドー王子と、大公の弟であるアーカム・ルドー侯爵が覇権争いをして火花を散らしていると、聖からの情報だ。
そして今回、ユウの為に特別、空港のゲートを通れるよう手配してもらったり、滞在中ホテルにSPを付けてもらったりという破格のビップ扱いを可能にしたのは、ひとえに聖の人脈のお陰だ。
何度かこの国へ訪れた聖は、どうやら個人的にマナ王子とパイプを築いていたらしい。
その為、王族だけが利用する空港ゲートを特別に手配できたそうだ。
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