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「……タローさん、声大きいって。充分聞こえてるよ」  零にタローと呼ばれた、髭を生やした厳つい男性は、鬼のような顔で零を睨んだ。 「だったら、もっとトップ・モデルの自覚を持ちなさいよっ。あなたA+の専属モデルなのよ! アジアのモデルと10年契約なんて普通考えられないんだからっ! 」  そうオネェ言葉で捲し立てられると、零は少し不貞腐れた顔になってプイっと横を向いた。 「――――こんなに自由がないんなら、いっその事モデルなんか辞めちまうかな……」  ポロっと出た本音に、タローとそのアシスタント、そして傍に控えていたマネージャーがサッと青ざめた。 「零っ!! 」 「――オレ、結構本気かも」 「バカな事を言ってるんじゃない! 君は、日本を代表するスーパーモデルとして、今一番の注目株なんだぞ」  いつものお説教に、また零はウンザリとした顔になった。  ちなみに、この零という青年。  冒頭に登場したユウの恋人であり、本名を柊木・タルヴォ・零といい、フィンランド人の母と日本人の父を持つハーフの青年である。  しかし、零は母親の血が強く出たようで、外見は完全に北欧系の、彫刻のように完璧な容姿をしていた。  歳は二十になったばかりと大変年若いのだが、身長は198㎝と堂々とした体躯をしており、彼の隣に陣取るマネージャーや、姦しいスタイリストよりも遥かにデカい。  しかし彼は天性のモデル体型をしており、身体は確かに大きいが『ゴツイ』という表現は当てはまらず、猫科の大型獣のような、しなやかでどこか優雅な体躯をしていた。  彼が専属モデルを務める『A+』のイメージは、気品あるジャガーだ。  まさにピッタリだと、世界的有名カメラマンのフランシスカ・ビビが零に惚れ込み、直接日本の事務所へ彼をvogueの被写体に指名すると連絡が入った時は、スタッフ一同驚愕し、次に狂喜乱舞した。  そしてそこからが、展開が早かった。  ビビはA+の専属カメラマンでもあり、零をこのままA+の専属モデルに是非ともスカウトしたいと打診され、事務所側は速攻でOKの返事を出した次第である。
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