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 二人が出会ったのは、零が十六、ユウが三十の時だった。  ユウの方がずっと年上なワケなのだが、精神年齢はもしかしたら自分の方が上かもしれないと、常々思っている零である。  とにかくユウは、幼いころネグレストに遭い死にかけたという悲惨な過去があるらしく、誰に対しても無意識に警戒し、心身ともにガチガチに身構えてしまうクセがあった。実際、幼少の頃のユウの周囲にはロクな大人がおらず、母親を含め身勝手な大人たちに散々苦しめられ何度も裏切られた結果、警戒心ばかりが強くなり、『恋愛』そのものにも一切の関心を持たないままユウは成長したらしい。  ユウは故郷を捨て十五で上京し、そのまま路上でスカウトされてスターになった。  零が心奪われたユウは、己の歌声一つで生き抜いた、セイレーンの声を持つ生粋の歌手だったのだ。  その歌声は聴くものを惑わせ、水底へ引き込むような妖魅の魔力を持っている。    だが、歌声と違い、彼の心も身体も非常にイノセンスで、完全なピュアだった。  零は、そんなユウの何もかもが好きになった。  ユウの全てに、零はハートを撃ち抜かれたのだ。  そこから何とか恋人になりたい……と、零は、かなり努力をした。  それまで、華やかな芸能界でそれなりに遊んできた零にとって、相手の心を手に入れる為に、己の欲望を我慢して慎重に付き合うというのは、実に初めての経験だった。  ユウの細いうなじや華奢な手足を見るたびに、零は直ぐにでも抱き付きたいのをグッと堪えて、二年間バード・キスだけで我慢した。 (※フレンチ・キスは完全な和製英語です。正しくはバード・キス)  そして今から一年前、やっといい(・・・)雰囲気にまで持ち込み、さぁ、いよいよ……となった時に、とんでもないトラブルが発生した。  何と、幼少時に受けた酷い虐待の記憶が引き金になり、ユウがPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症してしまったのだ。  死の間際まで追い詰められた悲惨な体験は、彼の精神を深く(むしば)んでいたらしい。
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