炎狼の花嫁

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炎狼の花嫁

 ヴァルディースは天幕の布越しに差し込む光に瞬きをした。朝だ。腕を伸ばし、欠伸をする。夜に眠り、朝に目を覚ますということが習慣になったのはこの一年あまりのことだ。  多くの生き物が当たり前にしている睡眠を、精霊は必要としない。炎の精霊の長として炎狼とも呼ばれるヴァルディースにとって、眠るということは意識を閉じるというだけだ。やろうと思えば数千年眠り続けることはできるが、それはおそらく生物が体感しているものとは異なるだろう。 「ん……」  胸元で身じろぎをする気配がした。春先で日中もまだまだ寒い時節。身を縮めて毛布にくるまり、ヴァルディースの懐に温もりを求めて擦り寄ってくる。頭から首筋にかけてを撫でてやると、くすぐったいのか眉間にしわを寄せて、一層背を丸めた。  眠ることが習慣になったのはレイスのせいだ。一年程前、ヴァルディースはある事情から組織で実験体として扱われていたレイスを、眷属にした。     
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