0人が本棚に入れています
本棚に追加
「え…」
残り少ない薪がパチパチと爆ぜる。傷男以外全員が同じ言葉を発した。
「ちょ。ちょっとまってくださいギン。この子にはなんの責任もありません。
確かにカズイが死んだ経緯は知りたいですが…
カズイの代わりは他の人を探すんです。
こんな娘にカズイの代わりを務めるなんて無理でしょう。あたしたちに必要なのはこの子の持っている情報だけです。」
「うーんまあでも、それもありかもね。でも小夜ちゃんには流石に危険すぎるんじゃないかなあ。」
「確かに責任も義務もない。
だが、あのカズイが己の子に何も教えておらぬと思うか?
あれだけ頭の切れるやつなのに自分が死んだ後も考えていなかったと?」
「まあ…確かにおっしゃる通りですが、でもこの子が情報以外に何かを持っているとでもお思いなんですか?」
サヤの知らない話の進む先が、知らないうちにサヤの方向をむき始めていた。
「マジかよ。まあ仕込めばなんとかなるけどさあ」
「でも…安全を保障できません。」
「どうせ身寄りなんかないんだしいいんじゃないの?」
なんのこと。
「早く見つけられるに越した事はない」
何を話しているの
「しょうがない」
視線がサヤにあつまり、一瞬時間の流れが止まる。一点に標的をあてぴんと張った糸のように鋭い目線が3人分。
捕 ま る。
自分の中の本能が鹿のように叫んだ。
同時に、脚が木の床を蹴る。
しかし小夜が踏み込むよりわずかに早く、傷男が剣を抜いたのが横目で見えた。
あと少し、早くこの展開に気づいてさえいればよかったのに。
そう思った次の瞬間には、窓の外の景色を映した剣の切っ先がが、小夜の喉をぴたりと捉えていた。
「悪いな。」
本当にそうは思っていないであろう冷たい表情で、傷男が言った。
なんとも言えない悔しさに、小夜は傷男をにらんだ。
そして、どこからか 伸びてきた誰かの手が見え、ごめんねという声と甘ったるい薬の香りが小夜を襲った。
最初のコメントを投稿しよう!