序 「準備完了」

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「どうも、皆さんお揃いで」  十八時二十分。久遠(くおん)一行は木霊(こだま)神社の境内に到着した。 久遠(くおん)の恰好は、昨日から変化は無い。(おおかみ)はしっかりと自分の仕事着に着替えてきていた。薄く青みがかった白い狩衣で頭には短い折烏帽子を被っている。腰には恐らく彼の武器なのだろう一本の太刀が提げられていた。  到着早々、その場にいた陰陽師達に注目を受ける。皆黙ったままこちらを眺めるだけなので、ひどく居心地が悪い。陰陽寮の人間にとって、フリーの陰陽師はよほど珍しいようだ。  横に並んで立つヨミは相変わらず無表情だが、後ろに隠れ気味の(おおかみ)は何やら緊張と不安で身を縮めていた。 「貴方が法師陰陽師の久遠(くおん)さんですね」  境内にいた一人、黒と白を基調とした陰陽寮の正装に身を包んだ人の良さそうな青年が話しかけてきた。 「倉橋(くらはし)桃舞(とうま)です。本日はどうぞよろしくお願いします。まだまだ未熟ですが、精一杯、務めを果たします」 「そうか君が…。随分腕が立つと耳にするよ。どうもよろしく」  そう言って久遠(くおん)が右手を差し出すと、桃舞(とうま)は快く握手に応じる。第一印象と違わない好青年ぶりだ。力強く握手をした桃舞(とうま)はそこでふと、横に立つ十歳程度の着物の少女に注目する。 「こちらの子は……? 町の住民ですか?」 「ああ、こいつはヨミ。式神だ。俺、式神使いなんで」  式神使い。  いわゆる陰陽師の中でいくつか分岐する専門職の一つ。調伏した妖怪――つまり打ち倒した妖を、自らの(しゅ)力で縛り使役する術者の事を指す。式神を用いる陰陽師は基本的に、符や人形など、形代を用意し、その中に封じる形で式神を持ち歩くのだが、久遠は初めから連れて歩いている。同業の中では比較的珍しいタイプかもしれない。 「式神……!」  久遠(くおん)の言葉に、予想外なほど大きく驚いた桃舞(とうま)。その表情には僅かな恐れが垣間見えた。式神自体は別段、陰陽師にとっては珍しくはない筈だ。直後に桃舞(とうま)は明らかにごまかしだと分かる笑顔を作る。 「い、いえ……何でもありません」 「?」  桃舞(とうま)の反応の意図が読み取れず首を傾げていると、もう一人男が近づいてきた。立烏帽子(たてえぼし)を被り、桃舞(とうま)よりも豪華な狩衣に身を包んでいる。一目で誰なのか察する事が出来た。
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