序 「準備完了」

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「貴様が蘆屋(あしや)の法師陰陽師・久遠(くおん)か。やはり裏切者の血統。軽薄そうな男だな」  有隆(ありたか)は、見下すような視線で彼を評価する。何とも不快感を与えてくる態度だ。 「おや、俺の事をご存じですか光栄です。あなたが当代の“陰陽博士”西洞院(にしのとういん)有隆(ありたか)殿ですか。思ったより老けてますね」  にこやかに言い返す久遠。 「貴様。たかが法師陰陽師風情が、目上の者に対する態度を弁えていないようだな……」  久遠(くおん)の態度のせいで有隆(ありたか)の顔に血が上ってゆくのが見て取れるようだ。沸点が過ぎる前に、久遠(くおん)の陰に隠れていた小さな影がひょっこり顔を出してきた。 「あ、あの~! もしかしてその(かり)(ぎぬ)西洞院(にしのとういん)有隆(ありたか)様ですか?」  いきなり割って入ってきた(おおかみ)を見て、有隆(ありたか)は怪訝な目を向ける。 「わて、此度の大儺儀(だいなのぎ)にて土地の術者として選出された(おおかみ)言います! 早速ですが、土地の龍脈の配置についてお知らせしたいんですが」 「貴様が土地の術者か。……ふん、もう良い分かった。この男に灸を据えてやろうかと思ったが、時間も無い。さっさと龍脈について情報を提供してもらおうではないか」 「え、良い鍼灸医の情報を? 違います、僕は土地の術者として来たんです。貴方の腰痛を治しに来た訳ではおまへん」 「なに? 貴様何を言っている」  うろたえる有隆(ありたか)。自らの発言に対する返答とは思えない言葉だったので当然ではある。 「貴方、こんな時に自分の事ばかり気にして恥ずかしくないんですか? “陰陽博士”ならもっとしっかりとしてください。貴方がそこまで緊張感が無いとは思いまへんでした!」 「き、貴様どの口が。ふざけているのは貴様だろう私の命令を無視しおって。痛い目に遭いたいか!」  一旦静まりかけた怒りが、再度噴火する。狼の天然の煽りが完全に決まってしまっていて、久遠は思わず笑ってしまいそうだった。流石に話が進まないのでしっかりとアドバイスだけはする。 「その子ちょっと耳が遠くて。しっかり会話したいなら念話の術とか使って直接頭に話しかけた方が良いですよ」  
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