第1話 ある日の夜

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「兄ちゃんまだいたのか? 夜遅くまで大変じゃの?」 「えっ? ああ、所長さん、お疲れ様です。……またお願いします」 「ああ、兄ちゃんも気をつけて、帰れよの」 「はっ、はい、ありがとうございます」 まあ、こんな感じごく普通の会話を、農協の所長さんとしている僕だけど。実はね、辺りはもう真っ黒な訳で。この農協の所長さんは、帰り道を気をつけるよにと、労りの言葉を掛けてくれたのだよ。 だってね、辺りは真っ暗闇で──唯一の光といえば。購買部の店舗の外にある、数台の自動販売機の光のみなだけで。そんな暗闇の中で、僕は自分の出した店の片付けをしている。特に今はまだ、一月の末の季節で、とても寒いし、手が(かじか)む中での片付けの作業なのだ。 まあ、取り敢えずは、軍手の方はしているんだけど。それでもね、指の先は、ジンジンとするんだよ。だから早く車に荷物を詰め込んで、エンジンを掛けて──車のヒーターで、体を温めて、温もりたい僕なのだ。 だってさ、この農協の購買部は、広島でも県北にあたる、山に囲まれた、春や秋には田園風景がとても綺麗でのどかな町だけど。今のこの時期はとても寒いし、たまたま、今日は運が良く。雪こそ降ってはいないけど。降れば直ぐに辺り一面が白い銀世界になる場所なのだが。先程も僕が述べたけど。今日はね、たまたま、雪が降らいないから、店舗にお電話を入れて、販売の仕事をさせて貰っていた。 でも、お昼はわりと温かかった──やはり、段々と日が落ちてくると。急に冷えてきだしたよ。だから僕の身体は、ブルブルなんだよね。
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