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略奪は、甘い蜜の誘惑
※話を一日前に戻す。
「……若草樹里さんですよね?」
若草樹里は、
出版社での仕事を終え、
夕飯の買い物をする為に職場を出ると、
一人の男性が声を掛けてきた。
「そうですけど……貴方は?」
樹里の不審者を見るような視線と問いかけに、
渚は、
口角を上げた優しい笑顔で、
彼女の前にしゃがみ込み、
彼女に一束の緋色の薔薇を差し出す。
「初めまして、
泉石渚と申します。
突然お声を掛けてすみません。
これは、
岡宮永輝さんから貴方が、
緋色の薔薇が、
お好きだと聞いたので、
よかったらどうぞ」
※緋色の薔薇の花言葉:「灼熱の恋」
「えっ! 永輝さんが! 私の事を」
「はい。
それは、
もう、
耳に胼胝ができる程自慢話を聴かされました。
けど、
どういう訳か、
貴方に会わせてくれなんです。
自慢話はしてくるくせに。
おかしいですよね? 俺達、
親友なのに。
僕が、
貴方を略奪するとでも思ってるんですかね?」
本当は、
嘘。
若草樹里を味方につける為に、
彼女の事を鳴海坂昴に調べさせ、
彼女を完全に信用させる為に、
岡宮永輝の親友として彼女に接近した。
そして、
その思惑は……いとも簡単に達成した。
「えっと…そんな事はないと思いますけど? あの? 泉石さん」
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