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間の抜けた声を漏らしつつ、僕がアデレード姫に向き直ると……。
ちょうど僕の目の前まで歩み寄って来ていた彼女が、ずびしっ! と、音が聞こえてきそうな勢いで、僕の鼻先に指を突き付けつつ、
「もっと教えてちょうだい、リドリック。この時代のこと。世界情勢とか、人々の暮らしとか……あと、若い女の子達の間で何が流行ってるとか」
「は、はぁ……。いえ、しかしですね……」
ずいっと僕に近づきながら、紅い瞳をキラキラと輝かせるアデレード姫。
にこにこ微笑みながら屈託なく尋ねて来る彼女に、僕は少しの間難色を示していたが……。
「教えて?」
「……分かりました」
やがて、笑顔で圧力を掛けて来るアデレード姫に、僕はなす術なくゆっくりと首肯するのだった。
☆
――1時間後。
この時代について、あれこれと一頻り尋ねて来たアデレード姫だったが……しかし、やはり疲れが出て来たのか、ゆっくりと瞼が下がり始め、船を漕ぎ出して……。
……そして、ついにくーくーと寝息を立て始めたのだった。
「アデレード様」
軽く彼女の肩を揺すって呼び掛けるが、返事はない。
どうやら本格的に寝入ってしまったようだ。
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