16人が本棚に入れています
本棚に追加
2話(蓮の気持ち)
僕の友達に、麻由の連絡先を教えてもらった。
僕にとって、麻由は気軽に話せる女友達。
なのにどういう訳か、
ヒビの入ったおさがりのガラケーには(Re:山口さん、私は未だにあなたのことが好きです)の文字。
え?
蓮の丸い目が、更にまん丸になった。
映画のポスターが張られた自室のベットで、ガラケーと数分にらめっこ。
ついにガラケーが壊れた…とは考えにくい。
この間、業者に点検してもらったばかりである。
もしかして、本当に、麻由は僕のことが好きなのかな?
蓮は少し赤みのかかった、あっちこっちに跳ねる黒髪を片手でクシャッとくずした。
高校に入ってから、今の今まで学校が違う麻由とは一切連絡をとっていない。
だからこそ、蓮はもう一度、麻由からのメールを一文字一文字しっかり見た。
(Re:山口さん、私は未だにあなたのことが好きです)
‐未だに‐
この言葉がどうも引っかかる。
何故なら彼女は「小説家になりたい」という夢をもっていたからだ。
中学校時代に、彼女の書いた小説を何度か読まさせられたことがある。
その全てが中学生とは思えない文章力だった。
そうだったから初めて告白した僕に‐未だに‐なんて言葉のミスを犯すはずがない。
告白されといてずいぶんと勝手な言い草だが、確かにそう思ったのだ。
蓮はガラケーに(Re:未だに好きってどういう意味?)と打って送った。
もしかしたら特に意味なんてないのかもしれない。
それなら後で、‐何でもない‐と取り消せばいい話だ。
もし、こじれたら、彼女との関係を全てなかったことにすればいい話だ。
女はどうして、こうも、友情を恋愛に結び付けたがるんだろう?
そんなことを考えていると「れん?」とドア越しに声がした。
母さんだ。
きっとスーパーのシフトから帰ってきたのだ。
蓮はガラケーをベットにほうり投げて、ドアの隙間から顔を覗かせた。
「どうしたの?」
「どうしたのって用事でもないんだけどね、ちゃんとストーブ点けてる?
いくら冬休みとはいえ、気を抜いたら風邪ひくわよ?」
母は、後ろで束ねたストレートの髪を指先にからませた。
その姿が何とも愛らしくて、
母の口にした言葉はまったく耳に入ってこなかった。
最初のコメントを投稿しよう!