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1話(麻由の気持ち)
背負っていたリュックの中で、スマホがメールの着信を告げた。
「ブーブー」
スマホのバイブレーション機能が、鈴本麻由の体を揺らす。
麻由は片手に持っていた本を、そっと本棚に戻した。
ため息を漏らしつつ、リュックの中から白いスマホを取り出す。
隣で本を読んでいたおじさんが「ゴホンッ」と咳払い。
図書館だとメールも見ちゃいけないの?
それともこの人が嫌味なおじさんなのかしら?
バーカ。
私は胸内でボソッとつぶやいた。
だからおじさんに「ごめんなさい」と謝って、図書館から抜けだしたのは全て何かの幻だ。
…なんてことはない。
全て現実である。
予想以上に寒かった外で、麻由は焦げ茶色のコートのすそを固く握りしめた。
このコートは「腰まで伸びた、ストレートの黒髪によく似合う」と彼に言われて、
中学校生活が終わりを迎えようとしていた去年に買ったものだ。
「私の髪が今と違ったら似合ってないの?」って聞いたら、
「当たり前でしょ。だって君の髪が母さんに似てるから、似合ってるって言っただけだもん」って言われたっけ…。
それも、今では遠い昔のことのように感じた。
麻由は、あまり良いとは言えない思い出にひたりながら、
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