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凍てついた深淵より
「何なのよ、これは?!」
液体窒素の蒸気を怒号が吹き飛ばした。極低温から蘇った患者は看護師につかみかかり、鼻骨をへし折ったところで永遠の眠りについた。
真っ白な床に女の大脳だったものが散らばっている。もう一人の看護師が護身用の銃を棺桶の列に向けている。
開かずのフロアが冷凍睡眠保険会社の施設だったことは外部監査の洗い直しで判っていた。つい、数日前の事だ。
ところが、その全容は個人情報保護と厳重なセキュリティーの壁に阻まれて歴史の闇に葬られていた。何しろ大深度掘削用のシールドマシンで地下70メートルに設えられた区画だ。
増改築を繰り返した病院の図面にも記されておらず、独立した電源と自己修復装置を備えたAIドローンによって人知れず維持されてきた。
これからも百年、千年、万年と機械の墓守に管理されただろう。院長の公私混同を止めさせるため自己破産申請されるまでは。
冬眠保険会社のモデルケースとして利権と引き換えに歴代院長の独断で密約が更新され、数十名の老若男女が生きたまま氷漬けになっていた。
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